香納諒一さんの「熱愛」を読む。
過去の傷に縛られて、人生を投げ出したヤメ刑事が
事件に関わる設定は、どちらかというと、
ハードボイルドの定番のようなもの。
傷のせいか、元々の性格のせいなのか、
意地を張り、人生に背中を向けるような生き方をする。
その、自分を追い詰め、追い詰めていく、
生きざまに息が苦しくなる。
鬼束も、まさにそんな男。
知的障害を持って生まれた息子は、
事件に巻き込まれ、六歳で命を失った。
そして妻は自殺し、鬼束は自殺を図るが死に損なった。
警察を追われた鬼束は探偵となり、裏社会の汚れ仕事を
請け負うようになる。
そんなとき、ヤクザの幹部が立て続けに殺害されるが、
それは、殺し屋「ミスター」の仕業だという噂が広がる。
ヤクザの次男、仁科英雄に「ミスター」探しを依頼された鬼束は、
その正体を探るうち、「ミスター」に殺されるたいと
願うのだった…。
裏社会で仕事をしながらも、
しみついた刑事の習性で謎を追う。
「ミスター」とは一体、何者なのか。
絶望、後悔、そんな負の感情に囚われながらも、
英雄や、引きこもりの弟、大樹との交流が、
ほんの僅かだが、人間らしい温かみを放出する。
この事件が、英雄や大樹、そして、
鬼束自身をも少しずつ変えていく。
「何もかもが少しずつ変わり、時には思いもしなかった出来事だって起こる。
生きているとはたぶん、そういうことだ」。