プロファイラー、羽吹の、壮絶な過去が徐々に明かされてゆく…。アイダサキさんの「サイメシスの迷宮 忘却の咎」を読む。
子どもの頃、何者かにさらわれ、そのまま一年間、
行方知れずになり、その後、突然、無事に戻ってくるのだが、
その間の記憶がすっぽり抜け落ちている。
無事には戻ってきたが、目にしたもの、体験したことを一つ残らず
鮮やかに記憶するという超記憶症候群を発症してしまう。
さらわれた間の記憶はないのに、その後の人生は、
「忘れる」という人間に必要な作用を失う、
無限地獄のような世界に放られた羽吹允。
そんな壮絶な過去を持つがゆえに、自分の周りに壁を築き、
人との感情のやり取りを拒絶し、氷のように孤立していた。
だが、その冷たさを、少しずつ溶かしているのが、
相棒の神尾。
一直線で、不器用で、だが、熱い心を持つ彼が傍にいるからこそ、
羽吹は狂わず、人らしさを失わずにいられるのだろう。
自分を追い詰める羽吹の心模様は、時として、
息が詰まりそうで、沈んでいきそうな重さを感じるのだが、
その緊張感をほぐしてくれるのが神尾であり、その妹の存在だ。
シリーズ三作目にして、その霧に閉ざされた過去が、
徐々に姿を現してくる。
幾つかの殺人事件には、常に、犯人を操る黒い影が見え隠れする。
そして、その影がついに、羽吹に接触してきた…。
「自分の罪を思い出せ」、影から、メッセージが届く…。