唯一ノ趣味ガ読書デス

ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

とても、とても悲しい事件が起こってしまった…。吉永南央さんの「黄色い実」(紅雲町シリーズ)を読む。

 

黄色い実 紅雲町珈琲屋こよみ

黄色い実 紅雲町珈琲屋こよみ

 

 

 

「紅雲町」シリーズも、もう七作目。

 

お草さんを始め、小蔵屋を取り巻く人々とも、

同じ町内のお隣さんのような、気安さと親しみで、

ああ、お元気そうですね、と、声をかけたくなる。

 

このシリーズは、あたたかな文体と相まって、

ストーリーに安定感、安心感があり、

新刊が出ると、躊躇なく手に取れる。

 

何気ない人々の何気ない暮らしが生き生きと描かれ、

そういうものが愛おしくて、時には、涙腺が緩むことも。

 

といっても、善人ばかりが登場するわけではない。

 

底意地の悪い人物や、トラブルメーカーのように、

周囲を引っ掻き回す人、ほんの少々の悪意が、お草さんらの

心を乱すことも。

 

それは、やはり、日常の一コマであり、

人同士の関係の要素でもある。

 

「生きていることは、変わること」。

日々のうつろいの中で、徐々に変わっていくこともある。

 

そして、今作は、とても、とても、悲しい事件が起こってしまう。

 

シリーズの柔らかな雰囲気に慣れてしまって、

不意を突かれた感じだ。

 

小蔵屋の客の女性が、少し離れた場所にある

店の駐車場でレイプされてしまう。

 

その出来事には、久美も巻き込まれて…。

 

物語の半ばから、お草さん、どう、決着をつけるの、と、

お草さんの苦しい息遣いがこちらにも移って、

息苦しくなった。

 

このシリーズも、何かが変わっていく気配がしてくる。

 

だが、読み終えてみれば、同じ日常が戻ってきており、

心底、安どした。

 

悲しい事件は非日常の出来事ではあるけれど、

日常のすぐ隣にあることを、あらためて気づかせてくれる。

 

その出来事にどう向き合うか、そのやり方によって、

人の魅力は決まるのかも。

 

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とにかく、日ごろ、人を殺した、殺されたなんていう物語ばかりを

読んでいるワタシ。

 

フィクションとはいえ、知らないうちに、何かがたまってくる。

 

だから、このシリーズを読み、心をじゃぶじゃぶと洗って、

お日様の下で乾かすような気分になりたくなる。

 

そして、お草さんのように、

年を取ることを嘆くより、変わっていくこと、

変わらざるを得ないことをよしとして、

楽しみ、暮らしていけたらと思うのだ。