アイダサキさんの「サイメシスの迷宮 逃亡の代償」を読む。
メインキャラである羽吹允は、特異な人物である。
卓越した観察力&推理力を持つ優秀なプロファイラーなのだが、
壮絶な過去を持つせいなのか、協調性ゼロで偏屈、あきれるほど
場の空気を読まない、
とにかく取り扱い困難な人間なのだ。
子どもの頃、何者かにさらわれ、そのまま一年間、
行方知れずになる。
さらわれて一年後、突然、無事に戻ってくるのだが、
その間の記憶がすっぽり抜け落ちていた。
おまけに、目にしたもの、体験したことを一つ残らず
鮮やかに記憶するという超記憶症候群を発症していた。
普通の人間が生活を過ごすうえで、「忘れる」という作用は
自分を守るために必要なことだという。
超記憶は特殊能力として、犯罪捜査に役立つのかもしれないが、
折り合いをつけて生きていくには強靭な精神力がいるだろう。
加えて犯罪被害者となり、その間の記憶を失っている現実を抱えて
生きていく羽吹という男は、特異としかいいようがない。
その視点で語られる夢や、想いに、時々息苦しさを感じるが、
それをゆる~くほどいてくれるのが、相棒の神尾刑事だ。
生真面目で青臭いところもあるが、
心優しき神尾の存在が、重くなるストーリーの流れを救う。
東京都下で、女児殺害事件が発生。
首を絞められ、全裸の遺体には洋服がかけられ、
足首を斬られていた。
羽吹は、その状況が8年前、和光市で起こった女児連続殺害事件と
酷似していることに気づくが、8年前の犯人は獄中で死亡していた。
羽吹は神尾とともに、8年前の犯人の関係者を調べ始める。
この作品では、女児殺害事件とは別に、
羽吹の過去に関して新しい事実が少しずつ明らかになってくるのだが、
おいしいものを小出しにされている感じで、
あ~、続編、なるべく早くお願いしますぅ。