平気で命を懸ける、いや、狂っているだけ。異能者、トウヤと、捜査官、珠子とのコンビが楽しい。吹井賢さんの「破滅の刑死者」を読む。
異能者を扱った物語を読むのは、久々だ。
大体は、異能者同士の戦いの面白さが主となるが、
この作品は、それに加え、不可思議な香りがする。
戻橋トウヤという青年の言動が、物語の核となる。
何をどう考え、どう動くのか、
誰にも理解できない。
物語の中では、しばしば「狂っている」と表現される。
狂気を身に抱えながら、人は平然と生きていけるのか。
それとも、トウヤは、人に非ず…か。
戦いは心理戦。
人は、経験から来る驕りや油断、猜疑、恐れ…、
そうした感覚から逸脱したものに、動揺させられる。
逸脱したもの、それがトウヤだ。
内閣調査室内に、「異能者」対策として設置された特務捜査部門、
それがCIRO-S(サイロス)だ。
新しく配属された
は、ある事件の目撃者であるトウヤと出会う。
トウヤは、何でもないことのように、命を懸ける。
生きているという実感を得るために。
それは、珠子にとっては、狂気以外の何物でもない。
そんなトウヤと、心の中にある正義を信じようとする珠子とのコンビは、
最初はチグハグだったが、だんだんと呼吸が合うように。
そして、最後の異能者との戦いで、トウヤの能力が明かされる。
このコンビのこれからが見たい、と思う。