人が死ぬ怪談を探す怪談師、呪いで死にたがる少女、そして怪談師の元恋人。三人は、本物の怪談を見つけることができるのか。新名智さんの「虚魚」を読む。
人が死ぬ怪談を探している怪談師、三咲と、
呪われ、祟られて死にたがっているカナちゃん、そして、
三咲の元恋人、昇との、奇妙な関係。
そもそも、人が死ぬ怪談ばかりを探すことも、
呪われて死にたがることも、奇妙ではあるが。
その奇妙さが、独特の雰囲気を醸し出す。
三咲の真の狙いは、人が死ぬ怪談で復讐すること。
物語は、怪談さがしと、そして、この三人の過去にまつわる謎のようなものが、
解きほぐされていく、ミステリーに似た要素と、
囚われていた心を取り戻す、旅に似た要素と。
「怪談」とは、一体何なのだろう。
悲しみ、うらみ、悔やみ、妬み…、
人の歪んだ心が、膨大な時を経て、どこかに積み重なり、
瘴気のように漂い、形となったものか。
心の中の大切なものを壊した人間が、すがりつくものか。
人が死ぬ怪談は剣呑だが、剣呑であるからこそ、
本物だと、思い込む。
大切な者を失った人は、その行方を必死で追いかけ、
「怪談」という異世界を追い求め、
異世界に行ったっきりになるのか、戻ってこれるのか。
いつしか、怪談に魅せられ、引き寄せられていく自分に気づく。
境界線を越え、異世界への入り口を探そうと、思う。