唯一ノ趣味ガ読書デス

ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

内藤了さんの「サークル 猟奇犯罪捜査斑・厚田巌夫」を読む。

凄惨な現場に臨場する厚田刑事。

そして、彼と夫婦となった石上妙子の若き日の物語である。

 

警察官一家、夫婦と子供二人が刺殺されたあげく、

全員の心臓がくりぬかれる。

放射状に並べられた遺体の頭の上にそれぞれの心臓を置くという

通称、「魔法円殺人事件」。

 

この事件は未解決のまま、<藤堂比奈子シリーズ>の

「Copy」へと繋がっていく。

 

だが、この作品の核は事件ではもちろんなく、

検視官石上妙子と厚田がいかにして夫婦になったか、

彼女のお腹に宿った子どもの行く末、

そして、いかにして夫婦でなくなったのか、

二人の、夫婦や仲間というより、人間としての絆が描かれる。

 

二人を結びつけるものは、

夫婦愛などではなく、「敵を取ってくれと

訴える被害者」なのだと、厚田は思う。

 

夫婦であろうがなかろうが、

この二人以上に強く結びついている男女はないだろうし、

それは、うらやましいことでもある。

 

 

サークル 猟奇犯罪捜査官・厚田巌夫 (角川ホラー文庫)

サークル 猟奇犯罪捜査官・厚田巌夫 (角川ホラー文庫)

 

 

 

 

 

 

伊岡瞬さんの「145gの孤独」を読む。

日常にポロッ、ポロッと落ちている悲しみを


柔らかな布でくるむように拾い上げ描写する。

 

4つの連作短編。

 

ピッチャーとして輝いていたスター選手、倉沢修介は、


ある打席で死球を与え、相手の選手生命を奪った。

 

と同時に、立ち直るきっかけをつかめず、


自分の選手生命も終わらせた。

 

 

その後、総合サービスの会社を経営する戸部という男に拾われ、


下請けの便利屋サービスを始める。

 

だが、身が入らず、いい加減な仕事ぶりに、


常に社員の一人、西野春香からいらだちをぶつけられている。

 

そして、事務所にはもう一人、春香の兄で、倉沢が


死球をぶつけた西野真佐夫がいるのだが…。

 

 

ある日、「息子のサッカー観戦に付き添ってほしい」という


女性からの依頼を受ける。

 

倉沢は、小学六年のその少年、優介を連れて


サッカー観戦に出かけるが、


少年は観戦せずに、参考書を開き勉強していた。

 

そしてまた、数日たって同じ女性から


同じ依頼が入った。

 

倉沢はその依頼に違和感を感じ…。

 


人は心に大きな傷を負うと、


その傷に向き合うことをやめ、なかったことにしてしまう。

 

それは一種の防衛本能なのかもしれないが、


完全に「なかったことに」はできないのかもしれない。

 

 

心を守っているつもりでも、


一度負った傷は、知らないまにジュクジュクと膿を出し、


心を完全に壊してしまう。

 

倉沢が過去に向き合い、自分を取り戻していくその過程は、


周りを巻き込み、小さくはあるが、ズキズキするような痛みを


与えているような気がする。

 

 

145gの孤独 (角川文庫)

145gの孤独 (角川文庫)

 

 

若竹七海さんの「さよならの手口」を読む。

探偵を休業し、ミステリ小説専門の古本屋でバイト中の葉村は、

古本を引き取りに民家を訪れる。

 

押し入れにあった本を物色しようと体を突っ込んだとたん、

床を踏み抜き転がり落ちる。

 

転がり落ちた先には、なんと、白骨遺体があった。

 

白骨に頭突き、なんていう経験は、葉村以外、

なかなかできるものじゃないのだろう。

 

「不運な探偵」というキャッチフレーズ(?)を

付けられた葉村の面目躍如といったところか。

 

ともかく、そのケガで病院に運び込まれるのだが、

同室の、往年の大女優から、失踪した娘の行方を

探してほしいと頼まれる。

 

この依頼を受けた瞬間から、数々のトラブル、

厄介ごとが葉村に襲い掛かるのだ。

 

で、今回は、まあ、ケガのオンパレード。

 

白骨への頭突きに始まり、

男に首を絞められた拍子に床に倒れ

顔面負傷。

 

そして、病院での大立ち回りで、

看護師の頭突きを胸に受けたり…。

 

相変わらず、調査で浮かび上がってくる人の悪意や

ハードな事実が、乾いた文体とシニカルな葉村の

毒づきで淡々と語られる。

 

そうした悪意や悲しみが澱のようにたまってくる。

 

真正面から向き合う探偵は、よほどタフでなければ務まらない。

 

ある作家が探偵に言わせた言葉を思い出す。

「強くなければ生きていけない、優しくなければ生きていく資格がない」。

 

優しさとは強さ、強さとは優しさだと、この時思った。

 

 

さよならの手口 (文春文庫)

さよならの手口 (文春文庫)

 

 

大沢在昌さんの「北の狩人」を読む。

北の国から新宿に一人の男がやってきた。

 

彼は、十年以上も前につぶれた暴力団、「田代組」のことを

聞きまわっている。

 

その男が動き回るにつれ、新宿の闇社会にさざ波が立ち、

やがて大きなうねりとなって、男たちを巻き込んでいく。

 

「狩人」シリーズの第1弾。2作目から先に読んでしまったのだが、

シリーズとは言っても、独立した物語で、

違和感はない。

 

「汚れのない瞳」を持つ北から来た男、梶雪人は

方言丸出しのしゃべりで、朴訥で爽やかこの上なく、

闇社会の男たちとは対象的に描かれている。

 

そして、彼と触れ合った男たちは誰もが、

梶の魅力にひきつけられるのだ。

 

新宿署の佐江も例外ではない。

 

始めは、無防備に嗅ぎまわる梶に

うさん臭さを感じるのだが、

その正体を知り、梶の人柄に触れたとたん、

肩入れしてしまう。

 

って、佐江は、「砂の狩人」にも登場するから、

「狩人」シリーズをつなぐキーマンは佐江なのか。

 

そして、もちろん梶は魅力的なのだが、

「本藤組」の宮本の生き様が、

「砂の狩人」の西野と重なり、切ない。

 

 

北の狩人〈下〉 (幻冬舎文庫)

北の狩人〈下〉 (幻冬舎文庫)

 
北の狩人〈上〉 (幻冬舎文庫)

北の狩人〈上〉 (幻冬舎文庫)

 

 

若竹七海さんの「錆びた滑車」を読む。

<葉村晶>シリーズ、待望の新刊。日本一不運で、同じくらいタフな女探偵の物語。さて、今回は、どんな不運に見舞われるのか…。

 

で、やはり、のっけから不運をひっかぶり、

ああ、いつもの葉村シリーズだと、妙に安心してしまった。

ホント、裏切られない。


これまでは、冷笑を浮かべ、皮肉たっぷりの目で

周囲を見ていた葉村だが、最近少々、変化してはいませんか。


なんだか、ここのところ、体もメンタルも弱ってきていそうな。

それに、愚痴も多くなっている。

タフな女探偵も、もう、四十過ぎ。

仕方ないとはいえ、とんがったところだけは、

失ってほしくない。


それに、この作品でも感じたのだが、

葉村は結局のところ、かなりのお人好し。

彼女の周りには、常に、人の都合などお構いなしの人間が

登場してくるのだが、

彼らに心の中で毒づきながらも、ムチャぶりでもなんでも、

つい、手を貸してしまう。


さらに、前々作と同様、今回も登場した当麻警部にも

いいように動かされている感あり。

 

さて、葉村は、石和梅子という老女の尾行という下請け仕事を、

付き合いのある「東都総合リサーチ」社から受けた。

梅子が訪問したアパートで張り込んでいたところ、

突然、彼女と、訪問した相手、青沼ミツエがアパートの

階段から転がり落ちてくる。


葉村は、その二人に巻き込まれ、ケガを負ってしまうのだ。


ミツエとの妙な縁がきかっけで、

彼女の孫、ヒロトとも知り合う。


八カ月前、ヒロトは父親と一緒に交通事故にあい、

父親は死亡、ヒロトは重傷を負った。

さらに、事故の前後の記憶をなくしている。


そんなヒロトから、父親と自分が事故現場にいた

訳を調べてほしいと頼まれる。


調査を進めるうち、大麻、鎮痛剤の横流し、密売といった

事実が浮かび上がり、事件は複雑化していく。


そして、ミツエとヒロトが住むアパートから火が出て、

二人は…。


葉村シリーズの登場人物たちは、富山店長を始めとし、

いずれも、一癖も二癖もあるしたたかな人間で、個性的といえば、

そうなのだろう。


あまりにもキャラ立ちし、葉村がかすんでしまいそうだ。


それにしても、葉村晶という女性は、

活字を追っていると、圧倒的存在感で迫ってくるのだが、

どういうわけか、うまくイメージできない。


実写化されたら、ふさわしい女優は誰だろうと、

想像してはみるのだけれど…。

 

 

錆びた滑車 葉村晶シリーズ (文春文庫)

錆びた滑車 葉村晶シリーズ (文春文庫)

 

 

伊岡瞬さんの「瑠璃の雫」を読む。

父は失踪。母はアル中。幼い弟に殺意を抱く小学生の美緒。過去に娘を誘拐され、未解決のまま年を重ねた元検事、永瀬。心に大きな傷を抱える二人が出会う。

 

父親は家族を捨て失踪。

母親はアル中で入退院を繰り返す。

幼い弟、充と、小学六年生の杉原美緒の唯一の味方は、

母の従妹である薫。

 

さらに、一番下に穣という弟がいたのだが、

生後十か月で窒息死している。

 

窒息死させたのは充だと、母はほのめかす。

 

美緒自身も、明るく、弟の面倒を見る健気な少女、

というわけではなく、心を閉ざし、かたくなだ。

 

充を鬱陶しく思い、時には殺意まで抱く。

 

黒い思いに押しつぶされそうになると、

傷だらけになるほど、指を噛み続ける。

 

そんな毎日を続ける中、薫の知り合いである

初老の元検事、永瀬丈太郎と出会う。

 

永瀬は検事時代、娘の瑠璃を誘拐されるという

過去を持っていた。

 

その誘拐事件は解決には至っておらず、

娘の行方も不明のままだった。

 

 

物語は3部構成になっているのだが、

小学生の美緒が永瀬と出会い、

少しずつ心を開いていくまでを描いた1部は、

美緒の追い詰められていく心が辛く、

読み進めるのにも気力がいった。

 

2部では、永瀬の娘の誘拐事件が詳しく語られ、

そして3部では、成長した美緒が、

誘拐事件や自らの過去をたどり、すべての謎を明らかにする。

 

謎は明かされても、失ったものは戻るはずがない。

 

「害を加えられた者は、加えた者を赦せるのか」。

 

赦すのか、それとも、捨て去るのか。

 

明日を生きていくために、人ができることは…。

 

 

立ち止まって考えてしまうほど重いストーリーだが、

結末は、明日へ顔を向ける美緒が描かれ、

心が少しだけ軽くなる。

 

 

瑠璃の雫 (角川文庫)

瑠璃の雫 (角川文庫)

 

 

椙本孝思さんの「ハイエナの微睡 刑事部特別捜査係」を読む。

ひねりのある仕掛けに、確かに、驚いた。

 

マンションの一室で中年男性のバラバラ死体が発見される。


胴体の下には大きな皿が置かれ、

ご丁寧にフォークとナイフまで用意されている。


さらに、頭部は電子レンジで「調理」されていた…。

(と、のっけから、グイグイと引き込まれる)


刑事部捜査一課特捜係の佐築勝道らの捜査で、

被害者は現役警察官であることが判明。


さらに、もう一人警察官の遺体が、

冷蔵庫に押しつぶされたような形で見つかる。


二つの現場には、ある企業の社章が残されていた。


その企業は、古くから街を支配する

ある一族だった。


「刑事」たちが殺人犯を追い詰めていく、

その過程は「警察小説」なのだが、

クライマックスにはひねりのある仕掛けが用意されている。


その仕掛けは、好き嫌いがあるかもしれないが、

確かに驚かされた。

 

 

ハイエナの微睡 刑事部特別捜査係 (角川文庫)

ハイエナの微睡 刑事部特別捜査係 (角川文庫)