唯一ノ趣味ガ読書デス

ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

佐々木譲さんの「犬の掟」を読む。

二組の刑事コンビが、別々の角度から一つの事件を追いかける。

 

徐々に集束してはいくのだが、

物語開始からしばらくはバラバラ感が気になる。

 

謎の輪郭がボンヤリし、どこを目指しているのか、

きょろきょろ、ウロウロしてしまった。

 

二組の刑事コンビが同じ事件の捜査に当たるのだが、

結末近くまで、その二組が相まみえることはない。

そのため、なかなか、真相のシッポさえ見つからない。

 

だが、ワタシたちは、中盤からひょっとしたら、ひょっとしたら、

という薄ぼんやりした疑いにひっぱられて、結末まで

持っていかれる。

 

謎の解明や事件の決着にスッキリ感はないのだが、

人の死は、肉体的な死ばかりではないという事実が重い。

 

暴力団幹部の深沢が車の中で、手錠をかけられたままの

射殺体で発見される。

 

その捜査で、所轄の門司、波多野の二人の刑事が再会する。

 

警視庁捜査一課のもう一組のコンビ、松本と綿引は、

二年前に起きた変死事件との類似性から、独自の捜査が命じられる。

 

実は、門司、波多野、松本は、七年前に発生した

事件の現場を共有していた…。

 

犬の掟

犬の掟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森水麿さんの「葬偽屋に涙はいらない」を読む。

「葬偽屋は弔わない」の続編。

 

自分の死後の周囲の反応が見たい。

そんな望みをかなえるため、

偽の葬儀をアレンジする「葬屋」、

殺生歩武(せっしょうあゆむ)、黒村、

そして、歩武に拾われたセレナ。

 

個性的な面々が、今回も、

さまざまな「死」を演出する。

 

死に向き合い、生を見つめなおす。

死を意識し生を語る4つの物語。

 

何度でも金を無心してくる母親と父親、

今回は、セレナの「毒親」と決着がつけられ、

一段落つけたのか、と思われる雰囲気。

 

歩武とセレナの関係は、まだ、思わせぶりで、

もう少し、この二人のやり取りを見ていたいのだが…。

 

 

葬偽屋に涙はいらない: 高浜セレナと4つの煩悩

葬偽屋に涙はいらない: 高浜セレナと4つの煩悩

 

 

 

 

 

 

中山七里さんの「ヒポクラテスの憂鬱」を読む。

「ヒポクラテスの誓い」の続編。

 

偏屈で扱いづらい、だが誰もが認める

天才法医学者の光崎藤次郎、

解剖大好きの変人、キャシー、

熱くてまっすぐな刑事、古手川、そして、

新米助教の栂野真琴。

このいつものメンバーが、死体が絡む

6つの難題に挑む。

 

死者の声を聞く。

 

「死」は「死」なのだが、

死に至るまでの事実を読み解くことができるのは、

法医学者だけ。

 

死体を解剖すればするほど予算は減り、

赤字になる。

 

法医学が置かれた厳しい状況にあっても、

真実を追い求める者たち。

刑事、そして法医学者の最強タッグが、

もう、何も語ることができない死者に代わって

真実を語る。

 

何も語れない、ということは、不条理な「偽」の事実を

押し付けられても反論ができないということ。

 

時には、大きな障害の前に、

膝をついてしまうこともあるが、

それでも、

「ヒポクラテスの誓い」の文言、

「能力と判断の及ぶ限り、患者の利益になることを考え」

(この「患者」には死者も含まれる)を守り、

「すべては患者のため」、メスをふるう。

 

そんな彼らのチームワークの強さを

目にするのが楽しみなのである。

 

 

埼玉県警のホームページに、

<コレクター>と名乗る人物から、

「全ての死に解剖が行われないのは、わたしにとって

好都合である…」という書き込みがあった。

 

その後、アイドルの少女がステージから転落し、死亡する。

 

それは、事故死として処理されていた。

 

さらに、<コレクター>の書き込みは続く…。

全ての自殺や事故死に、問題はなかったのだろうか。

<コレクター>の書き込み以来、

警察はひっかきまわされる。

 

今回は、古手川の上司、渡瀬警部の登場場面が多く、

渡瀬警部ファンのワタシにとって、

実にワクワクする作品だった。

 

 

ヒポクラテスの憂鬱

ヒポクラテスの憂鬱

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あさのあつこさんの「花を呑む」を読む。

抜き身の剣呑さを懐に飲むふたりの男。

 

一人は、北定町廻り同心、木暮信次郎。

そして、もう一人は、かつて、人を斬る暗殺者であった

遠野屋清之介。

 

あまりに違い、あまりに似た、この二人の因縁は、

いつまで続くのだろうか。

 

二人が対峙する場面は、いつでも息苦しい。

しかし、その息苦しさを少しでも和らげるのが、

信次郎につかえる岡っ引きの伊佐治の存在だ。

 

暗く、重い、信次郎と清之介のあり様とは対照的な存在。

 

唯一、まっとうな考え方をし、二人の危ういバランスを

なんとか保つ役目を果たす。

 

だが、この伊佐治も、二人との付き合いを続けるうち、

危うさに飲み込まれそうになっているのではないか。

 

なにしろ、信次郎に魅せられ、離れられなくなっているのだから…。

 

清之介にしろ、伊佐治にしろ、

その視点で心模様が語られるのだが、

信次郎の内面は、見ることができない。

このことが、どうも、座りの悪い気持ちにさせられる。

 

ともかく、微妙なバランスを保ちながら、三人の男たちは、

江戸の町で起こる事件に挑んでいく。

 

 

老舗の油問屋、東海屋の奥座敷で怪異が続く。

鏡台の奥から髪の毛が出てきて、女中の手にからまったり、

女の幽霊が現れたり…。

 

その直後、主の五平が異様な死体となって発見される。

 

外傷はないものの、口の中に大量の牡丹の花が詰め込まれていた。

そして、座敷には、甘い香りが漂っている。

 

五平には、外に囲った女、お宮との別れ話が出ており、

下手人としてお宮の名があがるが、

お宮は、牡丹の花の下で自害していた…。

 

 

花を呑む

花を呑む

 

 

 

 

 

宮部みゆきさんの「三鬼 三島屋変調百物語四之続」を読む。

宮部みゆきさんの時代小説で活躍する女の子たちが好きだ。

 

おきゃんで、気が強く、ちょっとやそっとではへこたれない。

だが、心優しい彼女たち。

 

中でも、「ガンバレ」と応援に力が入ってしまうのが

「霊験お初捕物控」シリーズのお初。

 

賢くて、かわいくて、タフな女の子だ。

 

そして、「三島屋変調百物語」シリーズのヒロイン、

おちかも、忘れてはいけない。

 

もともと、川崎、旅籠の娘だったが、

辛い出来事があり、自らを責めて、前を向くことをやめてしまった。

そんなおちかを心配する江戸の叔父は彼女を引き取り、

そして、ある出来事をきっかけに、

江戸の怪奇話を聞き取る役目を、おちかに言いつける。

 

三島屋の「黒白の間」で繰り広げられる百物語。

聞いて聞き捨て、語って語り捨てが唯一のルール。

 

客は、他者には見せたくない、だが、一人で抱えているのは

辛すぎる、そんな物語を吐き出す。

 

この作品は、その4作目。

 

「迷いの旅籠」「食客ひだる神」「三鬼」「おくらさま」の

4編が収録されている。

 

悲しい、切ない部分がある語りの中で、

「食客ひだる神」は「あんじゅう」を思わせ、

愛おしい、ほのぼのとした感覚が心に残った。

 

 

三鬼 三島屋変調百物語四之続

三鬼 三島屋変調百物語四之続

 

 

 

 

 

 

中山七里さんの「ネメシスの使者」を読む。

クセ者、渡瀬警部、そして岬検事が登場する。

 

これまで、さまざまな社会問題をテーマに扱ってきた

作家さんの作品で、今回は死刑制度。

 

死刑を逃れた凶悪犯の家族が惨殺される。

殺害方法は、その凶悪犯がかつて起こした事件を

踏襲したものだった。

 

現場には「ネメシス」というメッセージが

残されている。

 

「ネメシス」とは「義憤」を意味するが、

「復讐」と解される場合もある。

 

復讐なら、過去の事件の関係者による「報復」なのか。

それとも、司法制度に対するテロなのか。

 

渡瀬と古手川、岬が、犯人、そしてその真意を追いかける。

 

渡瀬シリーズを読むたびに思う。

彼は、実にブレない。

そのブレなさが、安定感を引き出し、

どんな状況になろうと、安心して読み進めていける。

 

渡瀬警部に任せていれば、間違いない、と。

 

 

事件に巻き込まれなければ、その渦中の人の想いは

分からない。

 

加害者と被害者家族。

「目には目を、歯に歯を」。

それで、納得というものは得られるのか。

それで、けじめをつけるしかないのか。

それ以上の落としどころはないのか。

 

どう考えても、答えは出ない。

 

 

ネメシスの使者

ネメシスの使者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大山淳子さんの「原之内菊子の憂鬱なインタビュー」を読む。

なで肩で、お尻のどっしりしたオバサン体型。

おたふく顔の原之内菊子。

 

だが、彼女には、特別な才能があった。

 

彼女の顔を見るやいなや、人は自分のことを

しゃべりたくて、しゃべりたくて仕方なくなるのだ。

悩み、グチ、何もかも…。

 

そのために彼女はトラブルを抱え込み、

職を転々としていた。

 

天ぷら屋でアルバイトをしていた彼女を見染めたのが、

弱小の編集プロダクション「三巴企画」の戸部社長だった。

 

彼女に会うと、人はベラベラと話をしたがる、

それは、取材記者として、ドンピシャじゃないだろうか。

 

そして、三巴企画の唯一の社員、桐谷俊、

生真面目で融通がきかない童話オタクの彼も

 彼女の魔術にかかった一人。

 

菊子に心の内をさらけ出し、また、

彼女を取り巻く人々の変化を目の当たりにするうち、

彼自身も変化していくことに気づく。

 

さて、三巴企画のインタビュアーになった菊子は、

やくざの組長の取材に出かけるが、

とんでもない事件に発展して…。

 

ストーリー半ばまで、菊子より戸部社長のキャラが際立ち、

菊子自身や心のうちの輪郭がぼんやりして、

物語に引き込まれるまでにはいかなかった。

 

 

人は胸の内、悩みやグチ、本音やたまった毒素を

人に向かって吐き出せば、

吐き出した人は楽にはなるだろう。

だが、本当に、楽になるのだろうか。

 

本音を漏らしたことを後悔しないのだろうか。

 

また、「話され症」の菊子に、

人々の「語り」は溜まっていかないのだろうか。

 

余計なことを考えてしまった。

 

 

原之内菊子の憂鬱なインタビュー

原之内菊子の憂鬱なインタビュー