唯一ノ趣味ガ読書デス

ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

北海道警釧路方面本部には、もう一人のオンナ刑事がいた…。桜木紫乃さんの「氷の轍 北海道釧路方面本部刑事第一課・大門真由」を読む。

 

氷の轍 北海道警釧路方面本部刑事第一課・大門真由 (小学館文庫)

氷の轍 北海道警釧路方面本部刑事第一課・大門真由 (小学館文庫)

  • 作者:桜木紫乃
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2019/12/06
  • メディア: Kindle版
 

 

新年おめでとうございます。

今年もよろしく!

 

北海道、釧路の海岸で男性の他殺体が発見される。

被害者は、札幌でタクシー運転手をしていた滝川信夫、

八十歳だった。

 

札幌の男性が、どうして釧路の海岸で遺体となったのか。

被害者には、「殺される理由」が必ずある。

その理由を追い求めるのが、釧路方面本部刑事一課の刑事、

大門真由、そして相棒となるベテランの片桐だ。

 

豊かな表現力で、ページからは人が抱える苦しみや哀しみが

匂い立ってくる。

字を追うだけで、濃い霧の光景や、魚市場の風景が

目の前に広がる。

しかし、それらはいずれも、明るさを持たない。

 

被害者の生きてきた道筋をたどる旅に、

真由は自分の生い立ちを重ねていく。

 

彼女は捨て子であり、

父と、外の女性との間にできた子であった。

そして、父の妻である、血のつながらない母、希代は、

全てを受け入れ、真由を慈しみ、育てた。

 

過去の傷とは。

その傷を抱えたまま生きる人、

傷に囚われで生きる人、

そして、誰しもが傷つくわけではない…。

 

この作品には、さまざまな「女の人生」が

垣間見られる。

さまざまではあるが、

いずれも、弱さの裏のしたたかさが見え、

結局の強さで圧倒される。

 

同じ、北海道警釧路方面本部刑事一課の

松崎比呂の登場には、ちょっと嬉しかった。

真由と松崎、一見対称的な二人だが、

芯の部分は似通っている。

二人がコンビを組んで、犯人を追い詰める、

いつか、そんな姿を見てみたい。

 

脳梗塞に倒れた父、そして母との関係も描かれるが、

家族の場面が心にしみる。

実は、ワタシの夫は、三週間前に脳卒中に襲われた。

それだからか、一つひとつの描写が重く感じられる。

 

人生の中で、こういうことは、誰にでも起こりうるはずなのに、

「何で」と思うのは、これまでどれだけ傲慢に生きてきたかということだ。

 

被害者とその過去を結ぶ小道具として、

北原白秋の詩集が出てくる。

その中の「他ト我」の

「…

二人デ居タレドマダ淋シ

一人ニナッタラナホ淋シ

…」が、切なく胸に迫る。

 

人が一人であろうと、誰かと二人であろうと、

とてつもなく孤独な存在であること。

その孤独を敵として打ち勝つのか、

身内に抱え込むのか…。

 

今年出会ったオンナ探偵、オンナ刑事たち。

今年も、多くの警察モノを読ませてもらい、

そして、多くのオンナ刑事、オンナ探偵に出会った。

 

その中で、印象的、というより大好きなオンナ探偵を挙げるとしたら、

葉村晶(若竹七海さん)、笹野里子(芦原すなおさん)。

二人とも、タフでしつこい。葉村などは、必ずトラブルに

巻き込まれながらも、引かない。

 

さらに、オンナ刑事では、こんな顔ぶれが…。

心経琴枝(丈武琉さん)、原麻希(吉川英梨さん)、

楯岡絵麻(佐藤青南さん)、藤堂比奈子(内藤了さん)、

高頭冴子(中山七里さん)、毛利恵美(梶永正史さん)、

椎名真帆(山邑圭さん)、片岡真子(鏑木蓮さん)、

八神瑛子(深町秋生さん)。

 

いずれも、鼻っ柱が強く、クセものだが、ブレない、

芯の通った強さを感じさせられた。

だからこそ、心惹かれ、応援したくなるのだろう。

 

来年は、どんなオンナ刑事、オンナ探偵に会えるのか。

楽しみである。

 

また一年が過ぎていった。

お付き合いいただき、ありがとうございました。

来年もよろしく!

 

 

おっとり「お嬢」、京花街育ちのオンナ刑事が犯人を追い詰める、片岡真子シリーズ二作目。鏑木蓮さんの「炎罪」を読む。

 

 

炎罪 (講談社文庫)

炎罪 (講談社文庫)

  • 作者:鏑木 蓮
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/10/16
  • メディア: 文庫
 

 

 

 

京都の女刑事、片岡真子シリーズの二作目。

 

登場人物の性格描写、心の風景、そして

ストーリー展開、全体的に相変わらずの安定感だった。

 

ただ、決着がちょっとバタバタとまとめた感があって、

それが残念だったが、そこに至るまでは、

十分に引き込まれた。

 

片岡の育った背景、京の花街の女らしい、

一本筋が通った芯のようなものが、彼女なりの

刑事の矜持となって、共感しながら読み進められる。

 

警察モノとして、前作で違和感を感じた京言葉も、

慣れたのか、それほど引っかからなかった。

 

前作で相棒となった高藤との絡みは、少々物足りなさを感じ、

片岡、高藤コンビはまだか、と、後半までジリジリしてしまった。

片岡の捜査に慣れるまでの高藤や、今作の伊澤のような

役どころも、スパイスのような働きで、必要なのかも。

 

精神科医の自宅が全焼し、現場から医師の焼死体が発見される。

同居していた妻は行方不明。

当初、周辺で発生していた連続放火との関連が示唆されたが、

手口の残忍さなどから、片岡は別件の疑いを持つ…。

 

刑事を辞めてやる!と、グチりながらも、捜査を始めたらひた走るオンナ。山邑圭さんの「刑事に向かない女 違反捜査」を読む。

 

刑事に向かない女 違反捜査 (角川文庫)

刑事に向かない女 違反捜査 (角川文庫)

  • 作者:山邑 圭
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/10/24
  • メディア: 文庫
 

 

 

「間違って」刑事になってしまった女、

椎名真帆巡査のストーリー二作目。

 

女性が殺害された後、片耳を切り取られるという

猟奇的事件なのだが、

どちらかというと、なだらかな丘をテクテク歩いていくような、

盛り上がりに欠けた感があった。

 

もちろん、椎名の十八番、「違和感」からの筋読みも健在だったが、

読んだ後に、彼女の活躍が印象に残らなかったのはなぜか。

 

今回の相棒、村田にもっていかれたか。

 

というほど、村田が魅力いっぱいのキャラ、

というわけではないのだが。

 

などと、ちょっとした文句を書いているのは、

このシリーズに期待しているから。

安定感は文句なく、

そして、仲間たちが椎名を見る目の優しさが、

やっぱり、いい。

 

彼女に幸運が舞い込むことは、あるのだろうか…。若竹七海さんの「不穏な眠り」を読む。

 

不穏な眠り (文春文庫)

不穏な眠り (文春文庫)

  • 作者:若竹 七海
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2019/12/05
  • メディア: 文庫
 

 

 

不運な探偵、葉村晶は健在だ。

 

四つの短編が収められた連作もの。

 

相も変わらず、自分勝手な依頼人に振り回され、

災いに巻き込まれ、首を絞められそうになったり、

池に落とされたりと、不運をもろ、かぶっている。

 

お馴染み過ぎて、ああ、葉村は元気だと、ホッとするのだ。

 

だが、悪態をつきながらも、依頼人の願いにこたえようと

走り回ってしまうのは、

お人好し以外のなにものでもない。

 

そんな依頼人、ほっとけよ、

と声をかけたくなるのだが。

 

何度でも言いたくなる、

「ハムラ、アンタはえらいよ」と。

 

そこまでして走り回るのは、

「ホントのところが知りたい」という好奇心の

なせる業か。

 

どこかネジの緩んだというか、外れた人物が

相も変わらず登場し、読んでいるこちらを落ち着かなくさせる。

なんでこんな思考回路?

なんでこんなことができるの?

と、葉村に代わって、こっちがヤキモキしている。

 

さらにさらに、来年一月から、

TVドラマ化されるのだという。

やめてほしいなぁ、実写化は嫌なのだ。

 

でも、葉村役はシシドカフカさんだと聞き、

なら、いいやと、手のひら返しをしてしまった。

ファンなもんで…。

 

ゾンビ・ウィルスに立ち向かうのは、六十五歳の研究者。跳ねっかえり捜査官とともに走り回る…。内藤了さんの「メデューサの首 微生物研究室特任教授 坂口信」を読む。

 

メデューサの首 微生物研究室特任教授 坂口信 (幻冬舎文庫)

メデューサの首 微生物研究室特任教授 坂口信 (幻冬舎文庫)

  • 作者:内藤 了
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2019/12/05
  • メディア: 文庫
 

 

 

パンデミック小説は、

一行目を読みだしたが最後、そのまま一気に、

最終ページまで持っていかれてしまう。

 

ウィルスに関連したバイオテロや、

パンデミックを題材にしたものは、

巷に氾濫しているが、

何といっても、これほど魅力に溢れた登場人物が

次々に現れてくるのは、この作家さんならでは、だ。

 

例えば、門番の老人たち。

学生たちが、「傭兵のケルベロス」と例える、

三人の守衛、主役を食いそうなくらい個性的な研修生、チャラ、

そして、実に頼りになる相棒、警視庁捜査支援分析センターの

跳ねっかえり捜査官、海谷。

 

彼らは繋がりを持たないが、

一つのチームのようになって、主人公である坂口教授を

支えていくのだ。

 

特に、海谷。

クセは強いが、決してブレない信念にもとづいて

犯人の背中を追いかける。

その様が、とてつもなくカッコいい。

 

そういう人々が、誰かのため、人類のために

走り回るその姿に胸が熱くなる。

 

そして、研究者ではあるが、決して研究バカではない、

坂口教授の好人物ぶりが際立ち、

心を離さない。

 

特に、妻への想いが、心を温かくした。

 

どうでもいいことなんだが、

エピローグの中で、海谷が、ハブられ捜査官仲間と

やり取りを交わしている。

この仲間に、「猟奇犯罪捜査斑」シリーズの東海林刑事の

姿がダブってみえるのだが…。

 

そうそう、同じ主人公が何度も、バイオテロやパンデミックに

遭遇するなんてのは変だろうが、

坂口、海谷たちに、もう一度、会いたい…。

 

坂口は恩師、如月からアルバムを託される。

その中に挟まれたDVDには、如月が大学のウィルス保管庫に

一本のチューブをしまう姿が映っていた。

 

坂口は保管庫からチューブを見つけ、

動物実験を行うのだが、

あまりにも恐ろしい結果を目の当たりにする…。

 

 

 

「悪魔」のような弁護士、御子柴。夫殺しの罪に問われた母親の弁護依頼を受けることに…。中山七里さんの「悪徳の輪舞曲」を読む。

 

悪徳の輪舞曲 御子柴礼司 (講談社文庫)

悪徳の輪舞曲 御子柴礼司 (講談社文庫)

  • 作者:中山七里
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/11/14
  • メディア: Kindle版
 

 

 

何が正しいか、正義なのか、ではない。

すべては、「依頼人の利益」のためである。

 

徹底的に悪いヤツ。

 

 御子柴弁護士シリーズの第四作目。

 

今回の御子柴は、自分の過去と対峙する。

夫殺しとして起訴された母親の弁護依頼を引き受けるのだ。

 

かつては加害者であった御子柴。

そして、加害者の家族であった母親。

 

御子柴という人物に共感こそ抱かないし、

魅せられることもないが、

シリーズを追い続ける中で、

彼の、言い訳めいた気持ちの揺れのようなものを

感じることもある。

 

過去に直結する事件や、

贖罪の意味を問う事件など、

彼の心を揺り動かそうとするものは、

このシリーズに欠かせないところではあるが、

最後まで、冷静で冷徹で悪徳の彼であって欲しい。

 

ところで、今回の決着は、

終わりまで待たずとも、ああと、想像がついた。

それが、残念か。