唯一ノ趣味ガ読書デス

ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

ひよっこ警察官、ケッペーの次の研修先は生活安全課。早速、闇を予感させる事件に遭遇して…。内藤了さんの「TURN 東京駅おもてうら交番」を読む。

 

TURN 東京駅おもてうら交番・堀北恵平 (角川ホラー文庫)
 

 

 

「ケッペー」シリーズの第四作目。

 

警察学校を卒業した恵平は研修段階に入り、

地域課研修で東京駅おもて駅交番のおまわりさんを勤め、

刑事課で鑑識を学び、そして生活安全課で修行することになった。

 

東京駅周辺のパトロール中、恵平たちは、

生理で腹痛を起こした女子中学生とその友人の面倒をみることに。

 

しかし、後日、その中学生が出血多量で死亡した事実を知る。

 

ちょうどそのころ、捜査一課の平野は、

やはり駅周辺の工事現場での酔っ払い転落死を調べていた。

 

捜査が進むうち、中学生の死と転落死が結びついてくる。

 

さらに、妊娠を「なかったことにする」仕事や、

嬰児の死体を売り買いする組織の存在が浮かび上がるのだが、

決着はつかなさそうで…。

 

そして、うら交番でも、警官のバラバラ事件が発生し、

どうやら、60年もの前の事件と現代が結びついてきそうな…。

 

ひよっこ警察官である恵平の、熱く、まっすぐな思いは変わらず、

犯罪の裏にうごめく人の悪意に翻弄されそうになるが、

警察官としての正義はゆるがない。

 

とにかく、この作家さんのシリーズものはいずれも、

登場人物が実に魅力的で、スッと、感情移入できるところが凄い。

 

今回の作品では、「猟奇犯罪捜査斑」シリーズの

死神女史こと、石上先生が登場したことに震えた。

 

これからも、シリーズの垣根を越えて、

さまざまなキャラクターの登場が期待できそう。

 

ただ、メリーさんやペイさん、ダミさんらの活躍が、

あまり見られなかったのは残念。

 

「うら交番を訪れたものは一年以内に死ぬ」という噂も、

気になるシチュエーションだ。

 

まあ、とにかく、まだまだ、気にかかる要素がちりばめられていて、

もうすでに、次作が待ち遠しくなる。

 

 

「なんちゃって司書」という設定、次々に登場する本たち。本好きにはたまらないストーリー。竹内真さんの「図書室のキリギリス」を読む。

 

図書室のキリギリス (双葉文庫)

図書室のキリギリス (双葉文庫)

  • 作者:竹内 真
  • 発売日: 2015/09/10
  • メディア: 文庫
 

 

 

本屋さん、図書館、古書店…、

つまり、本が存在する場所が舞台になった物語は、

それだけで、興味をかきたてられる。

 

古書店なら「ビブリア古書堂の事件手帖」(三上延さん)、

本屋なら「成風堂書店事件メモ」(大崎梢さん)、

図書館で思いつくのが、「れんげ野原のまんなかで」(森谷明子さん)などが

心に残っている。

 

友人に勧められて、訳も分からないうちに、学校司書という

仕事についた詩織、バツイチになったばかりだ。

 

それは、裏に夫の失踪という不穏な事情があるのだが、

ミステリーファンとしては、どんな犯罪に巻き込まれたのだろうかと、

先読みをしようとするのだが、

高校の図書室という舞台が邪魔して、なかなか読めない。

 

加えてだ。詩織が、残留思念を読み取る力を持つという設定が、

何か起こりそうな予感を余計に強め、ミステリー感は高まる一方。

 

だが…。

 

夫の失踪にまつわる話も、結構、あっさりとしたもので、

本にまつわるミステリー要素も、なきにしもあらずなのだが、

読み終えてしまえば、本をめぐるストーリーであり、

読書の醍醐味と、生徒たちとの交流、そして、

学校司書としての成長が描かれたお仕事ストーリーだと思えた。

 

それはそれで、次から次へと登場する本を介して、

世界は広がり、新しい扉が開かれていく。

本好きには、たまらない作品である。

 

そして、生徒たちが本を通して、友人を作り、

学校生活を楽しむ姿が生き生きと描かれ、

爽やかな作品でもある。

 

 

心のこもったおいしい料理と、心をほっこりさせてくれる謎解きを…。近藤史恵さんの「ヴァン・ショーをあなたに」と「マカロンはマカロン」を読む。

 

マカロンはマカロン (創元推理文庫)

マカロンはマカロン (創元推理文庫)

  • 作者:近藤 史恵
  • 発売日: 2020/07/30
  • メディア: 文庫
 

 

 

この作品は、「タルト・タタンの夢」に続く二作目だ。

 

今作を読もうとしたときに、三作目の「マカロンはマカロン」が

出ていることに気づき、エイやぁと、一挙に読んでしまった。

 

街の小さなフレンチレストラン、「パ・マル」。

そこの三舟シェフの供する料理は、ただおいしいだけではない。

客に寄り添い、一瞬にして、癒してしまう。

 

小さなレストランのホールの中で、

ただのシェフと客ではない、それ以上の関係が築かれる。

 

だからこそ、こんなレストランに出会いたい、と、願ってしまう。

 

二作目には七つ、そして三作目には八つの物語が収められている。

 

「ヴァン・ショーをあなたに」では、

シェフのフランス修業時代のエピソードが描かれ、

少しずつだが、シェフ自身の物語を覗き見することができる。

 

個人的には、「ヴァン・ショーをあなたに」の

「マドモアゼル・ブイヤベースにご用心」が好きだ。

 

三舟シェフの恋(?)と、そして、普段はあわてず騒がずで、

冷静な態度を崩さないシェフの動揺する姿には、なんとも言えない

面白味がある。

 

次は、どんなメニューを紹介してくれるのか、楽しみだ。

魚に絡めた四話の連作モノ。相変わらず、おふざけがキツイです。霞流一さんの「おさかな棺」を読む。

 

 

おさかな棺 (角川文庫)

おさかな棺 (角川文庫)

  • 作者:霞 流一
  • 発売日: 2016/03/18
  • メディア: Kindle版
 

 

ありえない展開でも楽しんでしまおうというミステリー、バカミス。

相変わらずの奇天烈な展開で、「そんなバカな」と叫びながらも、

楽しんでいる。

 

私立探偵、紅門(くれないもん)福助が関わる、

春夏秋冬、季節の旬な魚を絡ませた(無理やりなところもあるが)

奇妙な事件四つ。

 

春のタイから始まって、ウナギ、サンマ、アンコウと、

黒幕のような精神科医、宇大公彦に魚料理をふるまわれながら、

紅門はそれぞれの事件に導かれる。

 

事件の展開が奇天烈なところもだが、

紅門の、おふざけ、冗談、戯言もクセになる。

 

バカミスというジャンル、好き嫌いは分かれるだろうが、

ワタシは、嫌いじゃない…。

 

取り戻すことのできない時間、だが、確かにあのとき、三人は輝いていた…。津原泰三さんの「ルピナス探偵団の当惑」「ルピナス探偵団の憂愁」を読む。

 

ルピナス探偵団の当惑

ルピナス探偵団の当惑

  • 作者:津原 泰水
  • 発売日: 2014/05/23
  • メディア: Kindle版
 

 

 

ルピナス探偵団の憂愁 (創元推理文庫)

ルピナス探偵団の憂愁 (創元推理文庫)

  • 作者:津原 泰水
  • 発売日: 2012/12/12
  • メディア: 文庫
 

 

 

ぶっ飛んだ、刑事の姉を持つ主人公、吾魚彩子と、

男言葉を操る、親友の桐江泉、同じく親友で、

少々天然が入っているお嬢様、京野摩耶。

 

私立ルピナス学園高等部に通うこの三人と、

そして、彩子の憧れの君の祀島君が

さまざまな謎を解いていく学園ミステリー。

 

読み始めて、三人の少女の生き生きとしたやり取り、

少々、皮肉が加味されたユーモアたっぷりの会話に

まずは、やられてしまった。

 

それに、彩子の、がさつな姉、不二子の言動が、

普通ならイライラさせられそうなのだが、

登場人物の中で、最も生き生きとしているような気がするのは

なぜだろう。

 

ぶっ飛んだというか、とっちらかった性格が、

作り物の世界で、最も血が通った人間らしくうつるからか。

 

不可解なナソ、登場人物のキャラ、やり取りこみで、

この作家さんの作品には、独特の世界観がある。

 

ルピナス学園の三人のやり取りを読んでいると、

なぜだか、若竹七海さんが描くところの

「プラスマイナスゼロ」の三人の姿がダブって見える。

 

作品全体の雰囲気は異なるのだが、

こちらの三人、あちらの三人、役割、立ち位置が

とても似ていて、懐かしく、合わせて読み返してしまった。

 

だからか、ルピナス探偵団の中の祀島君の存在、

なくても良かったかな~と思うのだが。

 

名探偵として、現場に引っ張り出される彩子や

キリエ、そして時々、摩耶の推理で

物語が進んでいくのも、いいんじゃないかな、なんて

思ってもみたのだ。

 

そして、続編の「ルピナス探偵団の憂鬱」を続けて読んだのだが、

まず、第一話の展開に、呆気にとられた。

 

本当は、こちらの続編から先に紹介したい、

それほどの作品だったのだが、

やはり、第一作目を読んでからの方が、

続編の良さが、倍増するはずだ。

 

三人が過ごした日々を共に味わってからの

続編は、切ない…。

だが、尊い。

 

 

 

敬次郎の呪いに決着を、一挙にII、IIIを読んでみた。川崎草志さんの「呪い唄 長い腕II」と「弔い花 長い腕III」を読む。

 

呪い唄 長い腕II (角川文庫)

呪い唄 長い腕II (角川文庫)

  • 作者:川崎 草志
  • 発売日: 2012/10/19
  • メディア: Kindle版
 

 

 

弔い花 長い腕III (角川文庫)

弔い花 長い腕III (角川文庫)

  • 作者:川崎 草志
  • 発売日: 2014/04/08
  • メディア: Kindle版
 

 

 

「長い腕」シリーズのII、IIIと揃っているなら

一挙読みでしょ、というわけで、IIの「呪い唄」と、

IIIの「弔い花」を読み通した。

 

「呪い唄」が出たのは、第一作目が刊行されてから、

なんと、十一年後だというから、

一作目を刊行と同時に読んだとしたら、

その後、イライラし、諦め、そしてまったく忘れ去ってしまったのかもしれない。

 

今作は、かごめ唄に仕掛けられた敬次郎の罠で、

「弔い花」では…。

 

過去からの因縁がもたらす悲劇ということで、

このシリーズでは、過去の物語と、現代、進行中の物語が

互い違いに描かれていくという構成になっており、

二作目では、江戸末期に敬次郎が仕掛けた罠に、

勝凛太郎と、その父、小吉が関わっていく物語が

挟み込まれている。

 

勝凛太郎の物語は、これはこれで、面白く、

このまま、一本に仕上げてもらいたい感があったが、

敬次郎の罠としては、緩い感じがした。

 

一作目の、建築する屋敷に歪みを加え、

それが、代々、そこに住む人々の心を歪ませるという罠が、

強く印象に残ったせいか。

 

その歪みが効いて、長い年月をかけ、

旧家がジワジワと滅亡していくという壮大すぎる罠。

現代社会に生きる、呪いとは無関係な人々がそれに巻き込まれ、

命を落とし、あるいは人生を変えられる罠。

 

それほどに、恨みは深かったということだろうが、

虚しい罠だと思わざるを得ない。

 

 

 

そして、完結編。

敬次郎の呪いを、石丸が完結させる結末は…。

 

さらに、汐路という女性の生き方。

一作目は、彼女を中心とした物語ではあったが、

二作、三作目では、結局、傍観者だったような気はする…。

 

 

「歪み」がキーワード。はるか昔の怨念が、現代社会を歪ませる…。川崎草志さんの「長い腕」を読む。

 

長い腕 (角川文庫)

長い腕 (角川文庫)

  • 作者:川崎 草志
  • 発売日: 2012/10/19
  • メディア: Kindle版
 

 

 

作品を読み続けられるか否かは、文体の好み、

ストーリー展開のスピード感など、いろいろあるが、

何といっても、登場人物にどこまで共感できるか、

その世界に入り込んでいけるかどうかがカギになる。

 

この作品は、展開の早さはまあまあだったが、

あるところまで、主人公である、汐路の、

人を寄せ付けない、拒むような独特の雰囲気、

硬さ、ある意味、冷たさが負の感じとなり、

感情移入が難しかった。

 

それは、彼女の過酷な過去が原因なのかもしれないが。

 

だが、故郷である早瀬へ戻ってからは、

彼女の硬さや冷たさが、事件を引っ張っていく強さとなり、

だんだん、面白みを感じるようになっていった。

 

ゲーム制作、殺人、無理心中、旧家、サイコパス、そして過去からの因縁…、

要素が多すぎて、とっちらかっていて、回収しきれないものもあるなと

思っていたら、三部作だと知り、まあ、納得。

 

 

汐路が勤めるゲーム制作会社で、同僚二人がビルから転落して死亡する。

その現場を目の当たりにした汐路はショックを受ける。

彼女の幼いころ、両親が転落死していた。

そのころ、故郷の早瀬では、女子中学生が友人を猟銃で射殺するという

事件が起きていた。

 

この二つの事件には、ある共通項があった。

転落死した汐路の同僚、そして猟銃事件を起こした中学生、

どちらも同じキャラクターグッズを持っていたのだ。

 

汐路は故郷へ戻り、猟銃事件を調べ始めるうち、

はるか昔に起きた陰惨な事件が浮かび上がってくる。