元マル暴の刑事と、「なりすまし」刑事の凸凹コンビ。蓮見の事件、一応の決着を迎えたかと思いきや。加藤実秋さんの「警視庁アウトサイダー3」を読む。
「アウトサイダー」シリーズの三作目。
日本酒密造などの事件を片付けながら、
いよいよ、蓮見の父親の事件が決着を見る。
でも…、
陰謀を仕掛けた黒幕は別にいて…、ということで、
まだまだ、シリーズは続くようだ。
警察内部の陰謀、闇を取り上げる作品は多いが、
だましだまされで、どうしても重さが増し、
長々と続くと、疲れてくる。
主人公、蓮見のキャラは、今一つ、気が許せない部分があり、
惚れ込むほどの魅力を感じないのだが、
相棒となる架川は、マルボウ丸出しのいでたちや、
言動が、なんか、可愛らしい…。
紙の専門家、紙鑑定士・渡部が挑む謎は、紙、フィギュア、コスプレ…? 今回の相棒は、フィギュア作家。歌田年さんの「紙鑑定士の事件ファイル 偽りの刃の断罪」を読む。
「紙鑑定士」シリーズの第二弾。
ミステリーでは、刑事や私立探偵は別として、
様々な職業の人物が、名探偵役を振られている。
そのたびに、その職業にまつわる情報、蘊蓄が、
ミステリー小説だから、それほどの量ではなくても
紹介される。
作品の面白さとは別に、その蘊蓄、情報は、
興味深いものもある。
これまでにも、薬剤、特許、昆虫。。。と、
専門知識が披露されるので、
興味を惹かれたら、掘り下げてみるのもいいのだろうに、
根っからの怠け者で、なかなか、知識は増えない。
このシリーズの主人公、渡部の職業は、紙鑑定。
紙鑑定士というのは、正式な職業名ではないらしいが、
紙を扱う商売の「紙屋さん」で、
「紙の専門家」といえるだろう。
で、どの業界でも、謎めいたことや事件が起こり得るのだろうということだが、
紙そのものが事件解明のカギになるわけではなく、
模型やジオラマ、フィギュアが重要な部分を占める。
前作では伝説のモデラー、今作ではフィギュア作家の助けを借りて、
渡部は、真相を追求する。
この連係プレーが、なかなか楽しいものになっている。
そして、何より、読みやすい。
多くの人に愛でられる桜ではなく、ひっそりと咲く桜。桜星としての矜持を最後まで貫いた男、亀尾。そして、植木礼三郎が登場。神家正成さんの「深山の桜」を読む。
この作家さんの初読みが、「桜と日章」だった。
これが、植木シリーズの三作目だったので、
そこから、前へ前へと。
植木という、オネエ言葉を操る男は、
硬いイメージの自衛隊とは対照的で、
イロモノ扱いなのかと、思ったのだが。
後の作品では、名探偵役の植木礼三郎は、
ここでは最後まで、主人公、亀尾のサポート役だった。
三作目から読んだワタシとしては、
始めから緊張、そして重い空気の中、物語が進むところ、
植木の登場で一挙に空気が変わった感じで、待ってました!
自衛隊員が直面する現実に、
そして、圧倒的な描写に、
語る言葉もない。
彼らは、どのように正気を保ち、
誇りを持ち続けているのだろう。
何かを語れるようなものではなく、
読み終わると、ただ、ただ、しんとした思いだけが、
心の底に沈んで落ち着く。
最後の場面は、あまりにも切ない。
だが、美しい。
「侍」の生きざま、死にざまを見たような気がした。
決着は目前か。うら交番のジンクスは、ケッペーや平野の運命はどうなる。内藤了さんの「TRACE 東京駅おもてうら交番・堀北恵平」を読む。
「東京駅おもてうら交番」シリーズの七作目。
いよいよ、結末に近づいてきている。
今作の犯人の結末は、少々、消化不良で、
また、昔から続いているらしい「組織」の話も、
まだ、実体がつかめない感じで、
どんな結末が用意されているのか、期待が大きくなる。
このシリーズは、過去と現在が繋がる謎を解き明かすという目的で、
一つひとつの事件は、真相に繋がる伏線のようなものか。
得体のしれない過去の「怪物」が、
「地下道」を通り、現代に姿を現す。
それは、何とも恐ろしいことなのだが、
「悪意」というものか、「闇」というものかが、
人間のDNAに連綿として受け継がれるのだとしたら、
それは、もう、絶望的だ。
だが、いつの時代にも、柏村や、恵平、平野、桃田のような、
「正」を全うしようとしている者がいるなら、救いなのだろう。
そして、メリーさんが…。
彼女の生きざま、とても好きだ。
そして、羨ましかった…。
心が温まる、ばかりではない。犬と暮らすには、それなりの覚悟が必要…。近藤史恵さんの「シャルロットのアルバイト」を読む。
元警察犬、「シャルロット」シリーズの二冊目。
ペットを巡る、日常の、軽い、軽い謎解きで、
相変わらず、読みやすい。
でも、内容は、軽いばかりではない。
ペットも、生き物であるという大前提は、
誰だってわかっているはずなのだが。
「いのちを預かる」責任は、あまりにも重い。
夫を亡くした寂しさで、亡くしたばかりの頃は、
犬を飼いたい、なんて、思った時もあったが、
寂しさを埋めるだけのために飼うことは、
やはり、無責任と、今は自粛している。
そんなこんなも伝えてくれる作品で、
寂しかったら、こんなに温かい動物たちが登場する物語を読んで、
しばし、心をなぐさめよう。
「人間」検事の、それぞれの活躍。「正」も「悪」も一筋縄ではいかないが、事実に真摯に向き合う姿は爽やかだ。直島翔さんの「恋する検事はわきまえない」を読む。
「転がる検事に…」の続編。
前作の主人公だった、久我周平、そして、
新米検事の倉沢、「特捜部初の女性検事」だった常盤などが、
今作ではそれぞれ、短編の主人公を務め、
それぞれの正義を追い求めていく。
倉沢の異動先での活躍もさることながら、
前作でも魅力的だった常盤の人物像が、さらに深く描かれ、
魅力はどんどん、増していく。
その代わりと言ってはなんだが、
久我自身の出番が少なく、少々物足りなかったが、
最後の編で、彼の周辺が騒がしくなりそうな雰囲気が見られ、
続編に期待、か。
国際マラソンレースのランナーにテロ組織からの脅迫状が。特別編成チーム、MITのリーダー、下水流が挑むのは…。長浦京さんの「アキレウスの背中」を読む。
国際マラソンレースが東京で開かれる。
このレースは、賭けることができるもので、
日本版ブックメーカーの試金石の意味合いがあった。
レースの妨害を企む国際テロ集団から、優勝を期待される日本のランナーに、
脅迫状が届く。
警察庁が設立した特別チーム、MITに、
警察の各部署から精鋭が集められ、
そのリーダーに、女性刑事、下水流(おりずる)が任命される。
テロとは無縁の部署で勤務してきた下水流は、
どうして自分が選ばれたのか、上の意図が見えない中、
それでも必死に、テロ対策、そして捜査を続ける。
国家の威信、スポーツビジネスの利権争い…、
現場の意思とはズレる上からの指示。
リーダーとして、悩みながら任務に挑む下水流の人間臭さが良いが、
中盤過ぎまでは、少々、盛り上がりにかけ、それほどの緊迫感もない。
マラソンのテクノロジーの話や、
「アキレウスの背中」を追うランナーとの交流、
下水流自身の過去の傷、仲間に対する思いなどで、
テロと戦う物語としては、ヒリヒリ感が物足りなかったような…。