長崎尚志さんの「パイルドライバー」を読む。
猟犬は死ぬまで猟犬だ。二メートル近い巨躯。鋭い眼光。「パイルドライバー」と異名をとる神奈川県警捜査一課OBの久井が、刑事という仕事に迷いを持つ巡査部長とコンビを組み、一家三人惨殺事件の謎に迫る。
二メートル近い身長、細く引き締まった身体。
頭は見事な白髪。そして、細面の顔には切れ長の鋭い目が光り、
鼻は高いというより、長い。
事件を目の前にすると生き生きとしてくる。
名探偵とは、そういうものかもしれない。
人の不幸を楽しんでいるわけでは決してないだろうが、
大きな謎が立ちはだかると闘志を燃やす。
事件となると周りが見えなくなる、
猟犬体質ということだろう。
作品の主人公、久井(クイ)はそんな男だ。
神奈川県警捜査一課を退官したOBだが、
「伝説の刑事」と呼ばれ、その鋭さは誰もが認めるところ。
そして、もう一つの通り名が「パイルドライバー(杭打機)」。
その取り調べが、脳天に杭を打つような鋭さを持つからだという。
それは決して暴力的という意味ではなく、
どん欲に、だが繊細に、真実に近づいていくということ。
想像してみる。
この作品が映像化されるなら、この主人公を
誰が演じられるのか。
まったく思い浮かばない。
それほど、独特な存在感を放っている。
横浜市金沢区の住宅街で一家三人の惨殺死体が発見される。
その現場の状況が、十五年前に起こった
秋津家惨殺事件と酷似していることから、
その捜査に加わっていた久井がアドバイザーとして呼ばれる。
久井と組まされたのが、若手の中戸川巡査部長。
彼は、刑事という仕事に疑問を感じ、
実家の事業を継ごうか迷っていた。
いまだ未解決の十五年前の事件と今回の事件、
同じ犯人が起こした連続殺人なのか。
ひらめきと粘り強さで、事件の本質に迫っていく久井。
刑事をやめようと考えている若手が
この猟犬体質につきあううちに刑事らしくなっていく、
その過程が読んでいて楽しい。
また、他の捜一刑事たちも、なかなか魅力的なキャラが
揃っており、こちらも楽しませてくれる。