唯一ノ趣味ガ読書デス

ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

冷厳だが、温かみのある教官の目が、彼らを救う…。

 

教場 (小学館文庫)

教場 (小学館文庫)

 

 

いつも思うが、実に、短編の名手である。

 

登場人物はそれほど多くないが、濃密な人間関係を

感じさせる。

 

警察学校という、ある時期、一か所に押し込まれる生活だからこそ、

濃密にならざるを得ないか。

 

警察官を作り上げる学校とはいえ、

そこには、一般社会と同様、いやそれ以上の

妬み、嫉みが渦巻いている。

 

警察学校初任科第九十八期短期過程の風間学級、

その学生がたちが、全六話、それぞれの中心人物となる。

 

そして、教官の風間という人物像は、「冷厳な鬼教官」と

なっているが、全話を読むと、もちろん、厳しい目を持ち、

容赦ない判断を下すのだが、学生たちの心の襞も、じっと見つめ、

見守るということが分かってくる。

それは、「師」と呼べる思慮深く温かい人間の目だ。

 

 

警察学校とは、学生たちを篩にかけるところ。

厳しい教官たち、キツイ講習、そして実習。

いつ何時、足をすくわれるかもしれない、そんな毎日。

 

だが、風間は言う。

「ここは、たしかにふるいだ。だが、その逆でもある。残すべき人材だと

教官が判断すれば、マンツーマンで指導しても残してやる。そういう場所だ」と。

 

鋭い観察眼を持ち、かつては、強行班の優秀な刑事であった彼。

 

その経歴や背景は、多く語られない。

 

もちろん、主人公は、学生ひとりひとりだから。

 

でも、やはり、風間から目が離せない。

 

 

 

三十七人からスタートしたこの学級も、

一話一話、進むごとに、一人ずつ減っていく。

 

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各話の物語は唐突に終わり、その決着は、次のストーリーの中で

語られる。

トラブルに巻き込まれた学生は、どうなったのだろうか、

知りたくて、知りたくて、たまらなくなる。

 

その展開が見事で、知らぬ間に、一気に読破していた。

 

そして、エピローグで明かされる、風間教官の…。