唯一ノ趣味ガ読書デス

ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

連続殺人の現場に残された花びら、こめられたメッセージとは…。宇佐美まことさんの「聖者が街にやって来た」を読む。

 

聖者が街にやって来た

聖者が街にやって来た

 

 

 

神奈川県多摩市の新興地域の、

猥雑さを残した街に住む人々を描いた物語。

 

その街で花屋を営む桜子、そして娘の菫子、

ほぼ二人の視点で物語は進むのだが、

オカマのレイカ、レイカが勤める店のママ、

桜子の幼馴染の刑事、純、母親にネグレクトされている

一樹などなど…、続々と人物が舞台へと 登場してくる

 

実にさまざまな登場人物が交錯し、

ドラッグや殺人とか、児童虐待とか、母と息子の歪んだ愛とか、

問題がてんこ盛り。

 

一つひとつ、立ち止まって考えるのもいいけれど、

せっかくのストーリーの流れに乗って、

立ち止まらずに、エイヤっと読み終えてみれば、

実に分かりやすい、愛と哀しみにあふれた物語だった。

 

そして、この作者さんは、人物に対してなかなか容赦ない。

不幸はすぐ隣でほくそ笑み、登場人物に襲いかかる。

一人の男の、ただの気まぐれのような悪意が、じわじわと染み出す。

 

ここかしこにある、母と息子のねじれ、歪んだ愛情。

それが、むごい結末を呼び寄せる。

 

この物語に主人公はいない。

いるとすれば、猥雑だが、確かに人が息づいている、

この街が主人公なのかもしれない。

 

自殺、そして事故として処理された事件。

だが、現場には、パンジー、マリーゴールドの

花びらが一片、残されていた。

誰も気にも留めないその遺留品に、乗松刑事だけは

不審を覚える。

 

一見、何の関係も見いだせない二つの事件が、

連続した殺人事件へと繋がっていく…。