「タフ」、「最強」。どちらも、オンナ探偵、葉村晶の代名詞。「プレゼント」から「静かな炎天」まで読み直す。
推理小説、ミステリーを再読する、なんて、
「え~」と思われるだろうが、
もう、おバアサンゆえ、筋立ても犯人も、
まったく忘れているからこそ、何度でも読めてしまうのだ。
で、最近、このシリーズがドラマ化され、
シシドカフカさんが葉村を演じていた。
このキャラにぴったりの役者さんっている?と思ったが、
びっくりするぐらい、はまっていた。
はまっていはいたのだが、原作に比べ、少々、ぬるかった。
原作の葉村は、もっともっと、容赦ない。
それで、また、一から読みたくなったのだ。
ユーモアでさえも、人を刺し通すような鋭さを持っている。
変な表現だが、それほどの切れ味をもっているということ。
媚びない文体。
相手が読者だろうが、突き放す。
それがまた、気持ちいい。
そして、何といっても、
人であれ、物であれ、描写が凄い。
たちどころに頭の中で像を結び、
人物なら、生き生きと動き出す。
で、多少の皮肉も混ざっているが、
それがまた、的確で、つい、クスリとしてしまう。
例えば、街の廃れかけた美容院を訪れるのだが、
「かぶったとたんに感電死しそうな古いおかまが二台、
(中略)年代物の女主人が手をぶるぶる震わせながら、
テレビを観ていた」(静かな炎天「血の凶作」)。
下手な解説などいらない。
感電死しそうなおかまと、手を震わせている女主人の姿が
浮かび上がってくる。
実に辛辣な言い回しなのだが、
やっぱり、気持ちいい。
時系列にすると、
初登場したのが「プレゼント」で、
この頃は、ルームクリーナーや電話相談など、
仕事を渡り歩くフリーターだった。
ちなみに、「プレゼント」には八編が収められているが、
あの小林警部補と交代で登場している。
「世界一不運な」オンナ探偵として有名になった葉村。
数々の不運に見舞われるのだが、何といっても
「トラブル・メーカー」で、姉に殺されそうになったこと、
これこそ、最大、最悪の不運だろう。
葉村って、結構、過酷な生い立ちなのね。
作者さんの意地が悪くなったのか、
監禁され、トラウマになったり、白骨に頭突きしたり、
階段から突き落とされて、腐乱死体にしりもちついたり…、
「悪いうさぎ」あたりから、苛められっぷりがエスカレートしていく気がする。
不運はケガばかりではない。
契約調査員として仕事をもらっていた長谷川探偵事務所が閉業し、
その後、ミステリー専門古書店「MURDER BEAR BOOKSHOP」に
アルバイトとして雇われるのだが、
その店長、富山が、あっけらかんと、理不尽な要求や
無理難題を、葉村に押し付ける。
そのたびに、「と~や~ま~、てめ~、なにしてくれてんだーっ」と
口走りながらも、要求に応えていく。
さらに、富山ばかりでなく、あちこち走り回った先で、
新たな頼みごとをされ、グチりながらも果たしていく。
(静かな炎天「聖夜プラス1」)
葉村って、こんなに、お人好しだったっけ?
そんな葉村も、もう四十代。
体力は落ち、ケガからの回復も遅くなり、四十肩に苦しみ…。
この先、五十になっても、登場人物の理不尽な要求に’応えて、
走り回り続けるのだろうか。
それでも、できるだけ、長い間、葉村の活躍を見たい、
そして、容赦のない、冷たい口調で浴びせて欲しいと
切に願うのだ。