唯一ノ趣味ガ読書デス

ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

ショッピングモールで発生した無差別大量殺人。生き残った者は、何を隠しているのか。真実とは、一体、何だ…。呉勝浩さんの「スワン」を読む。

 

スワン (角川書店単行本)

スワン (角川書店単行本)

  • 作者:呉 勝浩
  • 発売日: 2019/10/31
  • メディア: Kindle版
 

 

 

三人組の犯人(一人は、仲間割れの末、殺害される)が

大型ショッピングモール、「スワン」で、無差別に殺戮を繰り広げ、

最後に自殺してしまう。

 

二十一名もの死者を出したその事件で、片岡いずみはかろうじて、

生き延びることができた。

 

だが、同じく事件に巻き込まれケガを負った、同級生の梢の証言によって、

いずみは世間から大きな非難を浴びることになる。

 

それは、犯人に捕らえられたいずみが、次々に犠牲者を選ばされたと

いうものだった。そして、彼女は生き残ったと…。

 

非難を浴び、うずくまるように生きていたいずみのもとに、

一通の招待状が届く。

 

集められたのは、事件で生き残ったうちの五人。

 

一人の老女の死に疑問をいだいた遺族の代理で、

弁護士が主催した「お茶会」だった。

 

現場で何が起こっていたのか、

五人の口から、真実を語らせようとするもの。

 

誰もが、何かを隠している…。

 

辛い日々を送っているいずみが、「お茶会」に参加する

真の狙いは。

そして、嘘をつく理由は…。

 

 

冒頭の殺戮場面が生々しく、

先の読めない展開、視点となるいずみの闇、

「お茶会」に集められた関係者の謎めいた行動、

スリリングで、早く早くと、結末に急いだ。

 

生き残った者は、ああすればよかったのか、

しなければよかったのか、と、繰り返し、

正解の出ない答えを、求める。

生き残った者は、それほどまでに非難されなければならないのか。

生き残った者が、悪になる。

 

真実は一つ、なんていうけれど、

決して、一つなんかじゃない。

 

彼女にとっての真実、彼にとっての真実、

さらに、誰かにとっての真実。

事象も、見る者が変われば、

それだけ違う、多くの真実がある。

 

「当事者にしかわからない」、結局、そこに落ち着くなら、

反論しても、抗っても無駄なのか。

 

この結末は、むなしい…。

生きていくには、乗り越えなければならない。

乗り越えるには、自己完結をして、納得するしかない。

 

この物語でカギとなる、もう一人、同級生の梢の想いは、

いずみと、教師の鮎川の視点でしか描かれていない。

 

彼女が、本当は、何を、どう受け止めているのか、

当人の口から語られないのが、消化不良といえばいえる。